超進学校・開成高校野球部の2005年と2007年の快進撃を振り返る

紹介

開成高校とは東京都荒川区西日暮里にある私立中高一貫男子校であり、東大合格者数40年連続全国一位(2021年4月現在)の超進学校である。

勉強一辺倒のイメージが強い同校にも、硬式野球部が存在する。(アイキャッチ:TCN 開成高等学校 2014高校野球 部活紹介
野球部の練習環境は決して恵まれてはいない。他の部活動との兼ね合いで、グラウンドを使った全体練習は週1回の数時間のみ。もちろん天候が悪ければ中止となる。多くの部員は放課後に塾に通っている。

そんな野球部であるが、夏の甲子園予選大会で2005年に16強入り(4勝)、2007年・2012年に4回戦進出(各2勝)と快進撃を繰り広げ、特待生を迎え入れて甲子園にも出場するような強豪校を相手に互角の戦いを演じたこともあった。

高校野球ドットコム 「勉強も野球も常に全力」開成(東京)の冬に迫る!!

開成高校の大胆な戦略

そんな活躍の立役者となったのは、同校の保健体育教師を務める青木秀憲監督(50)である。
青木監督は群馬県立太田高校を経て東京大学文科Ⅲ類に進学し、野球部に所属。選手としては活躍できず、スタッフとしてチームを支えた。東大大学院に進んでスポーツ科学を学び、卒業した1999年に同校に赴任、同年硬式野球部の監督に就任した。

TCN 開成高等学校【高校野球2015夏 】

前述の通り全体練習の機会は限られており、足りないところを補おうとすれば時間が足りない。そこで青木監督は、練習では守備を捨ててバッティングのみに絞るという思い切った方針を打ち出した。

どうすれば球を遠くへ飛ばすことができるか、そのためにどう体を動かせばいいかを監督の指導によって頭に入れた上で、選手たちは打撃を向上するために何をどうすべきか仮説を立てる。そしてそれを検証すべく日々の自主練習で準備して、全体練習に臨む。また、パワーを増やすためにウェイトトレーニングにも力を入れる。

TCN 開成高等学校【高校野球2015夏 】

目標は「強豪校を撃破する」こと。試合ではバントなどせず全員がフルスイング。10点取られても15点返すという勢いで、ドサクサに紛れて大量得点するというスタイルを目指していった。

開成高等学校(東京)
野球部訪問 第49回 開成高等学校(東京)

その戦略・戦術、奮闘ぶりは、同野球部に密着取材したノンフィクション作家・高橋秀実のルポタージュ「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリーにて描かれ、それを題材にしたドラマが制作されるなど話題となった。

そうはいっても現実は甘くなく、開成が活躍したと言える年は限られている。
この記事では、その奇抜かつ合理的なスタイルが確かな結果に結びついた、2005年と2007年の快進撃をそれぞれ振り返っていく。

2005年の快進撃

青木監督の就任以来、夏は6年間で3勝(2001・2002・2004)とパッとしなかったが、7年目となった2005年は一味も二味も違った。1回戦から3回戦までをコールドで勝ち上がり、4回戦では17安打の猛攻で5回連続得点を決め、勝利を収める。4試合連続二桁安打を記録し、チーム打率はこの時点で.451となっていた。

「正面衝突」理論が奏功 開成・古垣主将

 将来の夢は「東京大学で野球をすること」。

 開成のリードオフマン(先頭打者)、古垣弘人主将が4安打2打点と奮起した。

 8回表の5打席目。古垣君の打球は、外野を転がり、三塁打となった。今大会4本目の長打。それでも、「きちんと『正面』にきてたらレフトスタンドに入ってたはずです」と言い切った。

 「真上から見たときに、ボールの軌跡に対してバットが90度になるよう、後ろからたたくんです。これを『正面衝突』って言ってます」

 「正面衝突理論」は開成の猛進撃を読み解くキーワードだ。

 「金属バットと硬球なんだから、正しく当たれば外野を越える」。青木秀憲監督が日々の練習で何度も口にする理論を、同じように熱く語る。

 全国有数の進学校。部員のほとんどが塾通いで、古垣君自身も週2回通う。一方で、グラウンドでの全体練習は週1回しかない中、打撃力アップに力を入れた。

 「打ち勝つのが僕らの野球。連係プレーの練習はほとんどやったことがありません」

 全体練習ではキャッチボール程度。走塁の感覚は他校との練習試合の中で身につけるという。

 野球はワンプレー、ワンプレーの間隔があくスポーツ、というのが青木監督の口癖。「だからこそ、頭を使って次のプレーの予測をしろ」

 そのアドバイスは、古垣君の「判断のさえ」となって試合に表れた。6回、左前安打で出塁し、二塁に進むと、相手投手が暴投した。捕手の後ろに転がるボール。三塁に進んだ後も、もたつく捕手の動きを見極め、一気に本塁を突いた。

 8強入りをかけた戦いは、第1シードの国士舘が相手。「一(いち)か八(ばち)かで強く振るだけです。挑戦者なんで」

2005年07月21日 朝日新聞

5回戦。立ちはだかる相手は、同じくコールド勝ちを続けて勝ち上がってきた第1シードの国士舘高校。同校はその時点でプロ野球選手を7人ほど輩出していた強豪であり、過去10年で春の選抜に5回出場(累計7回)していた。

1点を先行されて迎えた2回表、安打と四球で無死一、二塁の場面から左翼席に3点本塁打を放ち、逆転する。これによって3-1とリードするも、その後立て続けに点を奪われる。3-10での7回コールド負けに終わったが、16強入りという結果を残した。

開成vs国士舘のスコアボード

理論を貫き3点本塁打 開成・山本君

 独特の打撃理論で4試合連続2ケタ安打と打ちまくってきた開成。強豪・国士舘相手にもその実力を見せ、一矢報いた。

 1点を先行されて迎えた2回表、安打と四球で無死一、二塁。打席の山本剛史君に送りバントのサインはなし。直球を強振すると打球は左翼席へ飛び込む3点本塁打に。練習試合でも打ったことがない本塁打に山本君は「頭が真っ白になって、どうしちゃったの?という感じ」。3―1と一時は2点をリードした。

 だがその後は苦手の守備が乱れ、コールド負け。青木秀憲監督は「やりたいことは貫けた。遠かった甲子園の扉の前まで来たが、カギかかかっていたという心境」と自信を深めた様子だった。

 選手たちは難関大学を目指して受験勉強に入る。東大で野球をやるのが目標という古垣弘人主将は「よく練習試合で『お勉強学校』ってなめられたけど、意地を見せることが出来たと思う」と笑顔だった。=神宮

2007年7月23日 朝日新聞

古垣主将はその後東京大学野球部に入って六大学野球で通算33安打を放った。

2005年夏 東東京大会 開成高校戦績

1回戦 10-2 都立科学技術 (7回コールド)
2回戦 13-3 都立八丈 (5回コールド)
3回戦 14-3 都立九段 (7回コールド)
4回戦 9-5 都立淵江
5回戦 3-10 国士舘 (7回コールド)

高校野球データベース 夏の地方大会編 開成高等学校

なお、この年の国士舘は全試合で5点差以上、チーム打率.393と打力に秀でたチームであった。

2005年夏 東東京大会 国士舘高校戦績

3回戦 11-1 都立新宿 (5回コールド)
4回戦 9-0 日本学園 (7回コールド)
5回戦 10-3 開成 (7回コールド)
準々決勝 16-7 成立学園
準決勝 9-4 修徳
決勝 10-3 日大豊山

高校野球データベース 夏の地方大会編 国士舘高等学校

同大会初優勝を飾った同校は甲子園に出場し、1回戦で選抜8強の天理を7-3で下し、2回戦で青森山田に0-3で敗れた。翌年夏も東東京大会で決勝に進出している。

2007年の快進撃

2006年は1回戦で明治高校に3-10(7回コールド)の敗北を喫した開成であったが、翌2007年には再び快進撃を繰り広げることになる。

開成満点!秀才打線爆発…高校野球選手権東東京大会

 東大合格者日本一を誇るスーパー進学校・開成(東東京)が桜町との初戦に臨み、10―0で6回コールドと快勝発進。東大志望のエース右腕・有藤航(3年)は、来春の東京六大学リーグ戦で早大・斎藤佑樹との投げ合いを熱望した。

 秀才イコールガリ勉の時代は終わった。今年の東大合格者190人を輩出している全国有数の進学校・開成が6回13安打10得点の猛攻でコールド勝ちし好発進だ。

 “秀才打線”が爆発した。初回、先頭の坂田雄紀(3年)がいきなり右中間を破る三塁打。「今考えると、あの一本がある意味ウチのすべてだった」と青木秀憲監督(36)も振り返る一撃に続けとばかりに、力強い打球が次々に野手を襲った。

 東大野球部出身の青木監督には独自の打撃理論がある。「とにかく力強く振る。スイングスピードの速いところに当たれば、打球は遠くに飛ぶ」と科学的に分析。少ない練習時間を打撃中心にあててきた。「アウトひとつが無駄」とバントは一切行わない。一見強引とも思える理論だが、効果は着実に表れ、05年には同校初の16強にまで導いた。

 ナインも確かに実践。1番から9番まで全員がフルスイング。指揮官も「打順をじゃんけんで決めようかと思った」と話すくらい賢者たちの実力は伯仲している。

 野球はもちろん、勉強だって全力投球だ。エースの有藤航(3年)は「東大に進学して六大学でプレーしたいですね」と大舞台に思いをはせる。大学野球界の話題を席巻する早大・斎藤佑樹投手には「あれだけ注目が集まる中で投げられる精神力はすごい」と尊敬のまなざしだ。夢の対決には「東大のエースになれれば自然とあることだと思うんで」とどこまでもクレバーだ。

 開成ナインが進学を熱望する東大は、現在リーグ40連敗とワースト記録を更新中。秀才軍団の自由な感性が不振にあえぐ東大野球部の救世主になる日が来るかもしれない。

2007年7月18日 読売新聞

続く3回戦では本塁打を放つなどして5-3で勝利を収め、4回戦で第2シードの修徳高校が立ちはだかる。

当時の修徳は巨人で79勝、日米通算93勝を挙げた高橋尚成など10人以上のプロ野球選手を輩出していた強豪であり、春の選抜に3回、夏の選手権に4回出場していた。2004年夏には甲子園で8強、2005年春は選抜出場(初戦敗退)、同年夏には開成を破った国士舘に準決勝で敗れている。

試合は7月23日15時42分、神宮球場にて火蓋が切られる。

3回まで両者ともにノーヒットで、開成は5連続三振などと抑え込まれる。
5回表、修徳は三塁打からの犠打により1点を先制。
修徳は二塁打4本を放つも、有藤投手からクロスに投げ込まれるスライダーをなかなか攻略できず、要所要所を締める開成のフィールディングに苦戦。開成は長打が一本も出ず、スコアの動かぬまま0-1で惜敗した。

開成vs修徳のスコアボード

敗れはしたものの強豪校を相手に接戦を繰り広げた開成の奮闘ぶりは、驚きを以て迎えられた。

当時の2chの書き込み(開成高校のスレッド)
当時の2chの書き込み(修徳高校のスレッド)

2007年夏 東東京大会 開成高校戦績

2回戦 10-0 都立桜町 (6回コールド)
3回戦 5-3 都立小松川
4回戦 0-1 修徳

バーチャル高校野球 開成(東京)

1年の頃から登板してこの年3試合を完投した3年生・有藤航選手は、東大と慶大を受験も不合格。浪人して予備校に通う傍ら、母校の助監督に就任して後輩を支えた。翌年慶大に進学して野球部に入部し、すぐに内野手に転向した。

修徳はその後快進撃を続け、決勝で選抜4強の帝京に2-4で敗れた。
スコアだけを見るとこの年修徳を最も苦しめたのは開成だったということになる。

2007年夏 東東京大会 修徳高校戦績

3回戦 13-0 東京学芸大附属 (6回コールド)
4回戦 1-0 開成
5回戦 15-2 都立葛飾野 (5回コールド)
準々決勝 5-1 都立足立新田 (完投16奪三振)
準決勝 11-0 東京実業 (7回コールド)
決勝 2-4 帝京

バーチャル高校野球 修徳(東京)

なお、優勝した帝京はその後甲子園準々決勝まで勝ち進み、のちに優勝した佐賀北に延長13回の末に3-4で敗退している。

それ以降の開成野球部の夏

2008年以降の14年間で勝利を挙げたのは4年間で計5勝(勝率.263)と、あまり奮っていない。
また、開成が目指す「ドサクサに紛れたコールド勝ち」は、うち2回のみとなっている。(逆にコールド負けは5回)

2008年
1回戦 24-0 都立蒲田 (5回コールド)
2回戦 2-14 駿台学園 (7回コールド)

2009年
1回戦 2-4 都立桜町

2010年
1回戦 1-9 郁文館 (8回コールド)

2011年
2回戦 6-7 都立江戸川

2012年
2回戦 7-4 都立小松川
3回戦 5-4 国学院
4回戦 0-10 日大一 (5回コールド)

2013年
1回戦 1-8 城北 (8回コールド)

2014年
2回戦 0-3 都立武蔵丘

2015年
2回戦 11-13 都立青山

2016年
2回戦 4-11 本郷

2017年
2回戦 7-8 都立足立西

2018年
1回戦 3-11 安田学園 (8回コールド)

2019年
2回戦 6-2 高輪
3回戦 5-7 駒込学園

2020年
1回戦 13-2 都立葛飾商業 (6回コールド)
2回戦 3-8 東亜学園 (東亜学園は優勝した帝京に準決勝で3-6で敗れる)

2021年
2回戦 0-9 都立高島 (7回コールド)

とはいえ、青木監督が就任した1999年から2021年8月現在までの23年間での夏の東東京大会における戦績は通算14勝23敗(勝率.378)であり、就任前年までの23年間(1976-1998)での同戦績は通算6勝23敗(勝率.206)であることから、勝率は2倍近くなったことになる。

ただし、在任23年のうち14年は初戦敗退に終わり、それ以外の9年で勝利を挙げているものの、複数勝利はうち3年間のみである。(2005年の4勝と2007年・2012年の2勝)

つまり、2005年と2007年の快進撃の印象に引っ張られて「開成野球部は(進学校にしては)強い」と取り沙汰されている節があるといえる。
野球はピッチャーの良し悪しで多くが決まる。2007年についてはピッチャーが上手く噛み合っただけかもしれないとはいえ、強豪と9回戦って1点しか献上しなかった点はドラマを感じさせるし、「週に一回・数時間の全体練習のみ」という制約の中、「守備をほとんど捨てて理論に基づくバッティングに特化した」攻撃野球で「コールド勝ちを量産・強豪校を追い詰める」といった成果を挙げた点は、確かに特筆すべきものがある。

今後再び開成が強豪校を追い詰め、さらには撃破する――なんてことはあるのだろうか。そんな番狂わせがあったら面白い。ぜひ帝京や関東一あたりにコールド勝ちを収めて波乱を巻き起こしてほしい。毎夏密かに期待している。

追記(2021/11/29)
開成高校硬式野球部は書籍「弱くても勝てます」の取材対象であった2012年世代以来、2021年現在に至るまで4回戦進出を果たせずにいる。最近知人に招かれた飲みの席にいた人と、日本シリーズがテレビで流れていたこともあって野球の話になった。その中で彼の出身校が日大一であること、2012年世代であることが分かったので「開成と当たった年ですよね」と尋ねたところ、その試合で開成を完封した投手であったことが判明した。その試合では開成がバントを一切してこなかったのが印象的だったという。彼はその後プロ野球独立リーグで活躍し、現在は消防士として働きつつ軟式野球チームに所属しているそうだ。
余談だが彼の祖父は巨人で活躍した元プロ野球選手であり、1965年にはリーグ20勝を挙げて日本シリーズで最優秀投手賞を獲得している。

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おまけ:他の超進学校の野球部は?

ついでに、他の超進学校の野球部はどうなっているのか。代表的なものを取り上げる。

灘高校硬式野球部 メガネ率が高い

まずは「東の開成・西の灘」として開成と並んで名高い超進学校である兵庫県の灘高校。
その硬式野球部は、夏の大会では1993年から15年連続で初戦敗退、2008年から3年連続勝利(計4勝)を挙げたのち、2021年8月現在11年連続初戦敗退している。2008年入学世代が強かったということなのだろうか。この範囲で見ると4勝33敗であり、勝率は.121。時期を揃える以前に開成の勝ち。(高校野球データベース 夏の地方大会編 灘高等学校)

次に、開成と同じく都内私立御三家の一角である麻布高校は、2021年夏までの過去30年間で7勝(2006年に2勝)している。7勝30敗なので勝率.189。過去30年間で16勝30敗・勝率.347の開成の圧勝。(高校野球データベース 夏の地方大会編 麻布高等学校)

最後に、東大現役合格率(現役進学者数÷その年の卒業生数)で例年圧倒的一位(半数近く)を誇る筑波大学附属駒場高校。過去30年間で2013年・2015年・2019年の各2勝(4回戦進出)を含む15勝(30敗勝率.333)を挙げているが、同時期で比較すると開成(16勝30敗・勝率.347)の辛勝。また、青木監督就任年である1999年からカウントすると13勝23敗・勝率.361。14勝23敗・勝率.378である開成の辛勝。(ただし修徳のような強豪との接戦や勝利はない)(高校野球データベース 夏の地方大会編 筑波大学附属駒場高等学校)

 

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