富士の樹海で真冬に野宿、凍死を覚悟した【行き方とヤバさ】

旅/紀行

2017年、12月も間もなく終わるというある日。

私と先輩は、東京から静岡へと向かっていた。

行き先は、富士の樹海。

経緯

私は大学1年以前から、富士の樹海に行ってみたいという願望を抱いていた。

多くの人が思い浮かべるのは「自殺の名所」という暗いイメージ。
どこぞの小説家が樹海で自殺する人を描いたことで、樹海自殺ブームが生まれたという説がある。

しかし、そもそも樹海は、手つかずの雄大な大自然が広がる壮大空間。
それを自分の目で見たい、美しい自然に囲まれたい、と思っていた。

当初は一人で行くつもりだったが、一人で夜の森に行くのは抵抗があったので、某SNSで仲間を募った。

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結果、行くと表明したのは、後輩1人のみ。
その後、大学の同期も名乗りを上げ、また、たまたま大学のカフェで出くわした先輩も取り込み、4人で行くことになった。

しかし、しばらくして後輩が辞めると言い出し、同期も出発前日の明け方頃に辞意を表明。
この企画、やっぱり行くの辞めたいという人が出ると想定し、ハナから「辞めたくなったら遠慮なくどうぞ」と打ち出していた。

こうして結局先輩と2人で行くことになった。

樹海への行き方

富士山までは、新宿駅からバスが出ている。

しかし、事前に予約しなくても大丈夫というネットの情報を鵜呑みにして行ってみたら、キャンセル待ち状態。

電車で行くことにした。

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向かう途中、鳥居のある駅

そうして先輩と、何度か乗り継ぎながら、目的地へと向かっていった。

徐々に、人が減ってゆく。それに比例して、車窓から見える緑が増えてゆく。

そして「富士山駅」に辿り着いた。

富士山が、眼前に広がった。 

スーパーで缶詰や飲み物などの食料品を調達し、富士山駅前からバスに乗り、樹海のすぐそばの「バス停・風穴(かざあな)」へと向かう。

バスに揺られて風穴に向かう間、iPhone画面を睨み続ける私に、彼は窓の外の景色の素晴らしさを何度か教えてくれた。

目の前のことを楽しまなければ、と感じた。

遊歩道へ

直行バスではなく周遊バスだったため、思いのほか時間がかかり、風穴に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。

パトロールのおじさんに話しかけられ不審がられたのだが「大学で地理学を学んでいて、フィールドワークをしていた」などと言って撒いた。自殺志願者とでも思われたのだろうか。

風穴のバス停からすぐに樹海の遊歩道に入れるはずだったのだが、おじさんたちの目があるので、自動車道沿いに歩くことにした。

まだ18時にもなっていないのに、空は21時くらいの雰囲気を醸し出していた。街灯がないので、懐中電灯を取り出して点けて歩いた。

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この道路標識には地味にビビった

しばらく歩くと、氷穴という看板のある場所に辿り着いた。
近くの小屋からは爆音でラジオが流れている。
爆音とは言っても、樹海の遭難者が抜け出すための手がかりとするには全く物足りない。
防犯上の措置なのだろうか。実際、音がないよりもある方がビビる。

遊歩道を探すべくiPhoneのマップを見ていたが、道は示されていないし、航空写真を見ても木で覆われているようで見えない。

ちょっと探してきます、と言って懐中電灯片手に森の方に少し進んでみると、すぐに道が見つかった。きっとこれが遊歩道だ。
このまま少し進んでみようかと思ったが、恐怖感に襲われ、蛇に睨まれた蛙のようにソソクサと走り去った。そのときの恐怖は、本能としかいいようがない。

遊歩道の脇には、自殺を思いとどまらせる主旨の内容の看板があった。 

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しばらく歩いていると、木々が晴れ、空がひらけてゆく。
ベガ・デネブ・アルタイル…プラネタリウムどころではない満点の星空。

ぼうっと輝く月に照らされた地上は、まるで色調を黒に設定したときのように暗いけれど、ハッキリと識別できる。右手には富士山が超然と聳えている。

iPhoneで写真を撮っても、陳腐なものしか撮れそうになかったので、一枚も撮らなかった。
我々はしばらく、その光景に見とれた。

聴こえてくるものは、遠くを走る車の音のほかに何もなかった。

樹海の中へ 

もう少し進むと、畑のようなところに差し掛かった。野生動物の音が聴こえる。
少し引き返すと、森へと続く細い道が左手に現れた。
我々は意を決し、遊歩道を外れた樹海の中へと溶け込んでいった。

森の中は、月明かりで照らされているとはいえ、やはり暗い。
新月ならばかなり真っ暗だったろう。
懐中電灯を頼りに進んでゆく。

大きな岩がある。
地面も岩がゴツゴツしている。
かつての噴火の際に飛ばされたものだろう。

さらに進んでゆく。
先輩はあまり乗り気ではないようで、慎重にゆっくりと後に続いてくる。

寝床に出来そうな場所はすぐに見つかった。
彼の提案で、そこを拠点とすることにした。

食事

懐中電灯を照明とし、荷物を降ろして、食糧を準備する。
ソーセージを焼き、湯を沸かしてカップ麺に注ぐ。 

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ガスバーナーを持って来るなんて発想は私にはなかった。
先輩の周到な準備には、何度も助けられた。

身体の動きを止めたからか、日中でも陽の当たりにくい森の中だからか、一気に冷え込んできた。
だから、温かい食べ物が身体に染みた。
酒は冷たいので、身体が冷えることを懸念して、あまり多くは飲まなかった。

ここにいたとき、おかっぱで目が大きく鼻と口の小さい四頭身くらいの少女が、私たちの近くに立って「もののけ姫」のだいだらぼっちのシーンの音楽の効果音とともに首を傾げる映像が何度も脳内に流れた。
そのときは決まって、景色が赤くなった、気がした。

ボロボロになる

大学のアウトドアの授業で習得したローピングスキルをうろ覚えながら実践し、ハンモックを張る。

横になってみると、木が倒れて臀部を強打した。
私のハンモックは網状であり、幅が狭かったので、居心地は良くない。

その後、彼の大きなハンモックに入れてもらったときは重量オーバーでその下にあった岩にハンモックが当たって破れ、落下した際に腰を打った。破れてしまったので、彼は地面にマットを敷き始めた。

私は自分のハンモックに戻ったが、張りすぎたために幅が狭くなり、乗り損ねてまた落下した。

ボロボロだ。

就寝…できねぇよ

まだ22時にもならないうちに、就寝モードになった。

・上半身8枚
・下半身4枚
・靴下2組
・カイロ
・帽子
・ネックウォーマー
・寝袋

充分すぎると思っていた。

充分じゃなかった。

舐めてた。ヤバすぎた。凍え死ぬんじゃないかと思うほどに。

その上、ハンモックの寝心地が悪く寝返りが打てず、かといって地面は凍っていて冷たく固いし、マットもないので、そのままハンモックの上で身体をもぞもぞと動かしつづけた。

変わらない景色、長すぎる夜

いつまで経っても空は明るくならない。
さっきまで果てしなく広がっていた大空は、壁か模様にしか見えなくなっていった。

どれくらいの時間を過ごしただろう。
時間を確認するのもかったるいし、知らない方が良い気がした。

「このまま、明るくなるまで耐えるしかない」
それまでの人生で、一番長い夜だったと思う。

ハンモックから木に覆われた空を眺めながら、朝なんて一生来ないんじゃないかとさえ思った‬。

待ち焦がれた朝

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気が付けば、空が明らんできている。

結局、ほとんど一睡もできなかった。
無意識的に、様々な妄想はしていたように思う。

寝袋を出て、片付けを始める。ゴミは一切残さない。

朝ご飯の準備。コンビーフを焼いて、カップ麺とリゾットにお湯を注ぎ、口に運ぶ。

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温かみに感動を覚えた。

樹海散策

荷物をまとめてから、樹海を散策しはじめた。
熊が出ないとも限らないというので、気を引き締めた。

かの星野道夫は、「熊がいるから山を恐れることができる」と言っていたらしい。

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慎重派である先輩は散策にあまり乗り気ではないことが雰囲気から伝わってきた。
先輩は、渋々といった様子でロープを持ちながらあとをついてくる。

ロープが足りないからここまでにしておく、という声が後ろから聞こえる。
もう少し行ってみますと伝えて、さらに突き進む。

現れた人工物 

青い人工物が見える。テントだ。
誰かいるかもしれない。

近くに洞穴があったので、熊がいる可能性を考えて注意しつつ、慎重に近付いた。

誰もいない。

テントは半分倒れている。
中にはリュックやライトが転がっている。

「iPhone5 9月20日発売」と書かれた広告のついたティッシュが視界に入る。

あとで調べてみたところ、iPhone5の発売年は2012年だそうなので、大体その頃のテントなのかもしれない。当時からして5年以上も前だ。

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テントから少し離れたところに、折りたたみ椅子が倒れていた。

ここで誰かが首を吊って自殺したのだろうか?
ちゃんと確認しなかったが、遺体らしきものは視界には入らなかった。

さらに奥へ

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さらに奥に進んだ。
人工物は見当たらない。

波を打ったように、木々が、地面がうねっている。
手の付けられていない雄大な大自然に包囲されていた。

鳥のさえずりとともに、車の音が遠くから聴こえてくる。まだまだ道からは近い。

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さらに奥に進めば、何かあるだろうか。
それとも、目に映るのは変わらぬ景色ばかりだろうか。

私はこういうとき、人工物にワクワクする。それも、古いもの。諸行無常のロマンを感じる。
小さい頃から、いつかどこかのジャングルで、かつて栄えた文明の遺跡を発見して驚嘆したいと思っている。

樹海に背を向けて

先輩を待たせるのも悪いので、走って拠点まで戻った。

もうすっかり空は明るい。樹海の奥でも、冬だからか木々の葉が少なく、光が予想以上に差し込んでいたが、それでも拠点のある場所に比べれば暗かった。

荷物を背負い、もと来た道を歩いた。
氷穴と風穴を結ぶ遊歩道を進む。
途中、立ち入り禁止と書かれた掲示があり、何があるのか気になった。

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しかし、先輩が乗り気ではなかったので素通りした。
一人だったら行っていただろう。

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風穴前の森の駅で食べた”とうもろこしソフトクリーム”は、これが最初で最後になるだろうという味だった。

12月30日、晦日。彼はバスに乗って関東へ、私はその場からヒッチハイクを始め、その日の夜の高校同窓会のために、関西へと向かった。

2018.01

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