歌舞伎町の客引きとボッタクリの裏側に迫る①

犯罪/胡散臭

第一章 はじめに

1.1 研究背景

東京都新宿区・歌舞伎町―。この街に対して人々が抱くイメージは往々にして「危険」に関連する。その中身は「暴力団」であったり「ぼったくり」であったりと様々だ。

歌舞伎町は戦後の誕生以来、犯罪が多発する無法地帯としてその名を知られるようになった。近年でも銃撃事件や殺人事件が度々発生し、2015年の新宿区における合計犯罪認知件数は区内でも群を抜いている。(凶悪犯の認知件数に至っては72件中29件)

注目すべきは、歌舞伎町が600m四方程度の大きさしかないということである。この区域内にはその大きさに反して何百もの暴力団が拠点を置き、違法営業を続ける何百もの飲食店や風俗店が立ち並ぶ。違法薬物や違法DVDが取引きされ、手配中の犯罪者や家出少女、身分証を持たない者たちが集う。

そんな危険で異常な街であるにも関わらず、歌舞伎町を訪れる者は後を絶たない。その結果、ぼったくりや窃盗などの被害に遭った者たちが明け方の交番を訪れることになる。歌舞伎町を訪れる人々が何らかの被害に遭うとするならば、大抵はぼったくりか窃盗である。暴力団の抗争や殺人事件に巻き込まれることはまずないと言っていい。縁あって歌舞伎町にしばらく滞在したことのあった私は、訪問者にとって最も身近な犯罪であるぼったくりに関心を抱いた。

歌舞伎町について扱った記事や書籍は多い。ぼったくりに関するものもある。しかし、ここで二つ特筆すべき点がある。

一つ目は、歌舞伎町は変化の激しい街であり、次々と最新情報が塗り替えられていくということだ。歌舞伎町を「経済特区」と表現した記者・柏原蔵書の書籍『歌舞伎町アンダーグラウンド』の前書きでは「歌舞伎町は常に変化をし続けている街」 [柏原蔵書2003:3]と説明されている。条例などが改定されれば客引きを含む歌舞伎町の住人たちは新たな抜け口を探し、そのイタチごっこは延々と続いてきた。客引きやそれを取り巻く環境、ぼったくりの手口などは、年々変化しているのである。

そして二つ目は、客引きたちの生の声を拾った文献や記事があまりないということだ。客引き行為やぼったくりは東京都や新宿区の様々な条例で罰則付きの規制対象、違法行為である。そんな違法行為をしている者たちにとっては調査目的のインタビューに応じることなど何の得にもならないばかりか通報などされるリスクも考えられる。ある客引きは「歌舞伎町にいる人にインタビューしてもほとんど誰も答えてくれないと思いますよ。訳ありの人が多いですし」と語った。書籍『歌舞伎町はなぜ〈ぼったくり〉がなくならないのか』[武岡暢, 2016]でも同様にぼったくりをテーマとした研究について記されているが、客引きに対して実行できたインタビューは一件のみ(それもぼったくりをしない客引き)である。

そこで私は、通常は拾うことが困難な客引きたちからの生の情報を集めることで、「今」の歌舞伎町においてぼったくりはどのような手口で行なわれるのか、どのような人たちがぼったくりをしているのか、なぜぼったくりはなくならないのかなどについて、その背景やシステム、使用される客引きテクニック、無料案内所と呼ばれる施設の実態などについて模索することにした。

1.2 研究目的

多くの場合、ぼったくりには客引きが関与している。「迷惑防止条例」や「ぼったくり防止条例」、「客引き行為禁止条例」など、東京都では違法な客引きを規制する様々な法律や条例が制定・施行されている。制服警官や私服警官が日々巡回し、55台(2019年現在)の監視カメラが目を光らせている。そうした様々な規制・監視があるにも関わらず、なぜ違法な客引きやぼったくりはなくならないのか、その手口はどのようなものであるかを、客引きやぼったくりをしている人たちの素性や考え方なども含めて把握・考察する。同時に、転換期を迎えている歌舞伎町の現状と今後についても検討する。

1.3 研究方法

研究方法は、歌舞伎町でのフィールドワークおよび関連記事・文献による。上述の事情により、定式化されたフォーマルなインタビューは実施しなかった。そこで私は歌舞伎町の路上を歩くたびに「何系のお店をお探しですか」などと話しかけてくる様々な客引きたちに対して「仕事を探している」と切り返すことで(複数日に渡って)関係を築いた。その上で「仕事の紹介」という名目で客引きの実情などを伺い、参与観察するという形を取った。

本シリーズの構成

次章(第二章)では、歌舞伎町の客引きの実態や無料案内所について多角的に説明する。第三章では、歌舞伎町のぼったくりについて、続く第四章では、客引きやぼったくりを取り巻く様々な規制やその歴史および今後について扱う。最後に第五章では本論文の要約並びに残された課題を述べる。

2020/01

歌舞伎町の客引きとボッタクリの裏側に迫る②
歌舞伎町での参与観察を通して知った、客引きとボッタクリの裏事情。

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